第四四回 姜子牙の魂魄が崑崙に彷徨う
第四四回 子牙魂游昆仑山
聞仲は黄花山の四将と吉立、余慶の両門人に護られて岐山に落ちのびた。明け方には敗残の兵士が岐山にたどりつく。その数は三万。総兵力の十分の一である。
闻仲在黄花山四将和吉立、余庆两门人的保护下落入了岐山,而他的残兵败部也在黎明时分好不容易逃入了岐山。闻仲清点一番,见所余兵马止剩三万,不到原来总兵力的十分之一。
聞仲が戦いに敗れたことは一度もなかった。だから、かかる惨敗は想像も及ばなかったに違いない。しかし意外にも彼は平静であった。勝敗は兵家の常、と割りきったからではない。彼の心を支えたのは、姜子牙への燃えるような遺恨と、たぎるような報復の執念である。
说实话,此前没有人听说过闻仲有打败仗的经历,一次也没有。因此,对普通兵士们来说,闻仲的惨败是难以想象的。但没想到闻仲此时仍然很平静。尽管胜败乃兵家常事,但这样的话不是随便就能断言的。此时支撑他的心的,是对姜子牙如烈火般燃烧的遗恨和如滚雪球般的报仇执念。
数十年来、聞仲は「おい聞仲!」と呼びすてられたことがなかった。天子の紂王すら、彼を「太師」と尊称している。それをあの姜子牙は「聞仲!」と呼びすてたばかりか、もう遠慮せんぞだの、容赦しないのだの、とぬかしやがった。
“喂!闻仲!”——数十年来,闻仲从未被人如此叫过,就连天子纣王,也尊称他为“太师”。可那个糊涂透顶的姜子牙不但直呼“闻仲!”,而且还丝毫没有半点客气!绝不能饶恕!
——容赦しないのは、あの田舍軍師ではなくて、このオレさまだ——と、そのとき聞仲は心に誓ったものである。国法を破ったことや叛臣を庇ったことなどは、その気になれば赦してやれないことはない。だが、そればかりは断じて赦せなかった。その遺恨と、かならず泣きベソをかかせてやる、という報復の執念が、戦いに惨敗してなお心を平静に支えた柱である。
——绝不饶恕的,不是那个田舍军师,而是这样的我!——闻仲在心里发誓道。违反国法和庇护叛臣等事情,只要他愿意,还是可以饶过的。但只有惨败这一点是断不能原谅的!他的遗恨,让他有种必定会哭个不停的感觉。这种报仇的执念,让他即使在战争中惨败了,也有能平静地支撑心灵的支柱。
「ちょっと出掛けるぞ。留守をにのむ」と聞仲は身体を休める暇もなく、鄧忠、張節、辛環、陶栄の四将と、吉立、余慶の両門下に言い残して、早朝、太陽の昇るのも待たずに、黑麒麟に乗ると岐山を離れて、一路、金鰲島に向かった。
“我出去一下。你们在这里看家。”此时的闻仲,连半点休息的时间都没有。心急似火的他,更是连太阳再次在早上升起也等不及。于是,在对邓忠、张节、辛环、陶荣四将和吉立、余庆两门人留话后,闻仲便乘墨麒麟离开了岐山,一路直奔金鳌岛而去。
空の上から眺めた金鰲島は、大海原に浮かぶ丹岩怪石、峭崖奇峰の霊島で、山(犭軍)、寿鹿、仙狐、麒麟の戱れる天衣無縫の仙境である。聞仲が中空から降りると、遊んでいた麒麟たちが三々五々と集まってきた。そして、大先輩の黑麒麟の首に鼻をすりつけて、親愛と歓迎の意を表わす。見渡したが人影はない。
金鳌岛是漂浮在汪洋大海上的灵岛。闻仲从空中眺望开去,只见岛上满是丹岩怪石、峭崖奇峰,而岛上的山(犭军)、寿鹿、仙狐、麒麟更是构成了一副天衣无缝的仙境图。闻仲从半空中落下,正玩耍嬉闹中的麒麟们便立刻三五成群地聚集起来。它们纷纷把鼻子贴在大前辈墨麒麟的脖子上,表达了亲昵和欢迎。闻仲放眼望去,金鳌岛上并无人影。
近くに島が散在している。歓迎を受けている黑麒麟を残して、搜しに行こうと聞仲は水遁を借りようとした。そこへ中空から、大きな袋を背負った菡芝仙が声をかける。
金鳌岛的附近还散布着许多岛屿。闻仲留下了受到热烈欢迎的墨麒麟,想要借水遁去寻找一番。这时,背着个大袋子的菡芝仙恰从空中经过,便大声向闻仲打了个招呼。
「おお聞道兄ではないか。待っていたぞ。道友たちは白鹿島へ出掛けた」と言う。言葉使いは男だが、菡芝仙は男ではない。背負った袋も、ただの袋ではなかった。「風袋」である。
“您是闻道兄吗?道友们到白鹿岛去了,都在那里等你呢。”菡芝仙道。菡芝仙说话时虽然使用了男性的口吻,相貌形容也与男性无异,但她却是一位女仙人。她背着的大袋子也不是一个普通的口袋,名为“风袋”。
「白鹿島でなにか?」
“白鹿岛上有什么宝贝吗?”
「なにか、はないだろう。貴公のために“練陣”をしているのだよ」
“宝贝什么的,应该没有。他们正在为公‘炼阵’呢!”
「練陣?」
“炼阵?”
「うむ、崑崙山の連中と勝負するために、符陣(玄妙を封じこめた陣)を練っているのさ」
“嗯,为了同昆仑山的那帮家伙们一决胜负,他们正在琢磨怎么设计好自己的符阵(有玄妙封印的阵法)。”
「また、なんで?」
“又是昆仑山?!为什么?”